「“育児マイレージ発言”」に出会った話

英語で、女性が取る育児休暇は「マタニティ・リーブ(maternity leave)」という。
では、男性の育児休暇は何と言うか?
答えは「パターニティ・リーブ(paternity leave)」だそうである。

僕も育児休暇を取るまで全く知らなかったので、
スカイプ英会話で海外の人と話すときに
おそるおそる使ってみているが、
「ああそうなんですね。いいですね。」
と普通に会話が進んで、毎回ほっとする。
(英語が話せる人なんだから、当たり前か。)

でも、「父親(男性)の育児休暇」みたいに説明的じゃなくて、
そういう単語があるっていうのは重要ですよね。
日本でも流行らないかな。

今回、育児休暇を取るにあたって、
会社の上司に相談したり許可をもらったのだが、
基本的には親切に、かつ前向きに便宜を図ってくれた。
本当にありがたい話だ。
3か月の休みなんて、考えてみたらすごいことだ。

例の「働き方改革」の流れで、「男性育休取得人数」とかが組織としての
「業績」になり始めたというのも背景にあるんだろうけど、
そういうシステムは、もっと浸透していけばいいなと思う。
(もっとも、「取りたい人が」「取りたい時期に」「取りたい期間」を
ちゃんと相談できることが大事だと思うけど。
男性育児休暇を義務化、なんてアイデアもあるだろうけど、
方向性としては、ちょっと違う気がする。)

さて、ここから「ついに明日から育休とるぞ」という前日、
職場であった出来事について書きます。

たまたま、職場で居合わせた上司(男性・たぶん50代)と、
「おっ、ついに明日から休みだな!」みたいな会話をしていた。
会話も終わりに差し掛かり、
「ではそろそろ…」的な雰囲気になったとき、その時は訪れた。

「じゃ、ま、いっぱいマイレージ貯めてきてくれよ?」

僕は、ん…?と彼の顔を見て、困惑の笑みを浮かべた。
マイレージ…?旅行いっぱいしろよってこと…?

意味を測りかねている僕に気づいたのか、上司はこう続けた。
「育児マイレージだよ。育児マイレージ。
 復帰したとき用に、ガンガン貯めといてくれよ!わははっ」
はははと僕もつられて笑ったが、その概念の一端に触れ、
ガツンッと何かに殴られたような衝撃を覚えた。

冗談言っているというのはわかるのだが、
何かすごく気持ち悪さを覚えたのだと思う。
時間を置いた今なら、それをなんとなく言葉にできるかもしれない。

考えてみると、この気持ち悪さの元は、
この発言に含まれる以下の「前提」なのだと思う。
「育児マイレージ」という言葉が
「育児において母親への貸しをつくる」的な意味だと捉えるとするならば、

  • 子育ての主体は母親で、父親はそれをサポートする立場である
  • さらに「その父親のサポート」に対し母親は感謝しなくてはならない(育児へのマイレージポイント還元という形で)
  • あと、全体的になんとなく、育児休職は父親自身ではなく母親のために取得するものだというニュアンスが感じられる

というようなポイントだろうか。
(話はずれるけど「復帰したらそのマイレージとやらを使わないと
 奥さんが許さないような働き方が待っているからな…?」
 ということが言外に匂わされている微妙なこわさもある(ぶるぶる))

ちなみに付け加えておくと、
その上司は結構面白い人で、僕も決して嫌いな人ではないし、
最初に書いたように育児休職について寛容な態度で接してくれたので、
この記事は、彼を始め「特定のだれか」を非難しようという話ではないです。

僕だって、復職してしまい4月に奥さんが一時“専業主婦”になる予定で、
すると結局、子育ての主な労力を奥さんに担わせてしまうことになると思う。

ただ、「子育ては女がするもの」と笑いにしてしまっても許される
「空気みたいなもの」が、少なくともいまの日本にあることは問題のように思う。

それに、今回の育児休職は、
自分が子育てして息子と一緒にいたいし、
というより何なら3か月も休めるなんてひゃっはーという、
どう考えても100%奥さんのためというよりかは、自分の為だったのだが、
それを言っても理解してもらえないのではないか…という、溝を感じる出来事だった。
(もちろん、説明すればわかってくれるかもしれないが。)

僕は働き始めた時、初任地が広島だったので、
「核兵器」とか「平和」について、わりと真剣に考える期間があった。

そのとき、
「なんで戦争はなくならないんだろう。
 なんで核兵器はなくならないんだろう。」
と不思議でならない気がしていたけど、
たとえば「男女の不平等」みたいなものも、ちょっと似ているかもしれない。

「女は男より地位が下!」というような、
わかりやすい、いかにも悪というような主張ではなく、
(未だにそういう趣旨の発言をする人もいて、もちろん問題なんだけど…)
普段の会話の中に垣間見える、
しっかりと我々の中に浸透してしまっている
「前提」こそが、最も相手にしがたい敵なのかもしれない。

もちろん決してこれは他人ごとではない。
育児休暇をとって、自分自身の中に住む「前提」を
いくつも発見しちゃった今、本当にそう思う。

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