「うちはしあわせになってはいけんのじゃ」。
美津江は一命を取りとめながらも、
生き残った罪悪感を抱えて生きている。
やがて美津江は、図書館に勤め、
原爆に関する資料を集める「木下」という青年と
互いに想いを寄せ合うようになる。
しかし、その罪悪感から、
二人を、なんとか引き合わせようと画策するのが、
美津江の父の竹造であったが、
実は竹蔵は、原爆によって命を失った幽霊なのであった・・・。

井上ひさしの『父と暮らせば』は、
戦後間もない昭和23年の広島を舞台にした、
二人芝居である。
広島弁をふんだんに盛り込んだ会話が
読売演劇大賞の優秀賞をはじめ、
数多くの受賞を果たし、
フランスや香港、ロシアなどでも翻訳され、上演された。
新潮社から出されている本は、
その脚本で、セリフとト書きだけで構成されている。
この本の、文庫版の「あとがき」も、
本編に負けず劣らずおもしろい。
まず、「二人芝居」は、
本当は「一人芝居」であるという種明かし。
他の様々な作品も、
こういう観点で読み直してみるとおもしろいかもしれない。
「翻訳されても失われないもの」なのだと言及する。
物語のクライマックス、竹造は美津江に語りかける。
父の娘への強い願いでありながら、
被爆者である美津江自身の悲痛な叫びでもある。
この「想い」もまた、
「翻訳されても失われないもの」のひとつだと思う。
今月、オバマ大統領が広島訪問することが決まった。
アメリカの大統領が広島に来るのは、歴史上初であるらしい。
そう簡単には現状は変わらないかもしれないが、
少しでも世界を良い方向に後押ししてくれることを
願いたいと思う。



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