“ことし読んだ本アワード”2018

※以下、本日の岡山→名古屋行きの新幹線での対談を収録。
過去のアワードはこちら

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▼記者
一応、ことしもやるんですね。
でもわざわざ新幹線の中でやらなくても…。

▽筆者
気づいたら、きょうの夜は地元の飲み会だし、
明日は大みそかだから忙しいし、
今を逃すと、今年は無しになりそうってことに気づいたんですね。

▼記者
まあ、どうでもいいことですね。
無理してやんなくていいんですけどね。

▽筆者
はい、まったくその通りですね。
自分でもほとんど読み返さない企画の一つです。

文字数を稼ぐ策として、
仮想対談を思いついた次第です。特に意味はありません。

***

▼記者
さて、まあそれはそれとして、
今年は61冊ですか。
(下記に、ことし読んだ本の一覧を収録)

去年が53冊、一昨年が100冊、3年前が60冊なので…
まあ、平年並ですね。

▽筆者
そうですね。ことし、ついにNetFlix無料体験をはじめ、
Fire Stick TV買っちゃったので、
映画とドラマをたくさん見ました。

スマホで電車の中でも見られるので、
読書量は大幅に減ってると思ったんですが…。

▼記者
元々、そんなに読んでなかったってことですね。

▽筆者
うるさいな。まあそういうことだけど…。
でも、大した数読んでませんが、
本って映像を見るのとはやっぱり違う体験ですね。

だから映画が出来てテレビが普及して、
いまはネット動画全盛期ですけど、
やっぱり本ってなくならないんだなと思った年でもありました。

▽記者
違うっていうのはどう違うんでしょうか?

▼筆者
うーん。
難しいけど、言葉って、
「かろうじて」伝えられるシステムのような気がするんです。
最低限の要素というか…。
だから、読んだら、勝手に心で想像して補完しますよね?

この場の筆者とか、記者とか、勝手にそれぞれ想像して、
十人十色だと思うんです。

本ってストーリーとか内容とか書いてあるんですけど、
結局は「設計図」というか。
設計図を読んで、理解して、想像して、
自分なりに物語をつくっていく楽しさがあると思うんです。

で、それにつられて、書いてないことにまで考えが至ったり。

映像は、言葉よりは完成されていて、
CADになっているというか、
設計図を超えて、3Dで建物見せられているから
面白いですけど、自分で組み立てる幅は、
本に比べると少ないように感じます。

だから、気軽にみられるんですけどね。

▽記者
なるほど。それはそうかもしれませんね。

▼筆者
スタジオジブリの鈴木さんが、
宮崎監督の読者体験について、
こんなようなことを書いてました。

宮崎監督が「この本面白いぞ」っていうから
どんなとこが?って聞いたら、
これこれこういう風に書いてあって…と説明してくれて、
それは面白そうだと思って自分で読んでみた。
そしたら、そんなこと一切書いてない。
宮崎監督は、勝手に頭の中で考えたことを話してくれていた。

同じ本を読んだっていっても、
「読書体験」は実は本当に人それぞれですよね。

▽記者
わりと真面目な前置きになりましたね。
でも、ちょっとやばいですよ。
ダラダラし過ぎ。

▼著者
え、いまどこ?もう新大阪!?
やばい!これはやばいで!!!

***

▽記者
はい、ちゃっちゃと行きましょうね。
2月に立花隆さんの「死はこわくない」に〇がついてますね。

▼著者
あ、これ面白かったですね。
確か看護学校の生徒に対して
立花さんが講義するという内容で。
相変わらず、

みなさんは医学に携わる人間なので、
@@はもちろん知ってますよね?
知っているという人?
(数人手を挙げる。)
えっ、これだけ。笑

みたいな上から目線前回の講義なんです。
その中の「いやいや知っとけよ」みたいな内容のひとつに、
E・キューブラー・ロス「死ぬ瞬間 死とその過程について」
も入っていて、興味があったので読んでみました。
すごくいい本でしたね。

▽記者
どういう本なんですか?
人の死ぬ瞬間を記録したとか?

▼筆者
エリザベル・キューブラーという人は医師なんですけど、
死を宣告された患者さんに授業に出てもらって、
医学生の講義で心境を話してもらうという試みを始めた人なんです。

末期患者200人以上に聞き取りをして、
死にゆく人々の心理を分析しました。

もちろん研究のためにやったんですけど、
「死」について話すことが、
実は患者さん側の心の安寧にもつながることが、
やっているうちにわかってくるんです。

▽記者
うーん、中々想像できないシチュエーションですね…。
自分だったら、話したいかな…。

▼筆者
それまでは、死を宣告された人に、
「死」について聞くことはタブーという空気があって、
実際、授業とか聞き取りをすること自体、
病院の人が猛反発されたらしいんですね。

でも、本人は話すこと楽になるケースも多かったらしい。
誰も聞いてくれないし、自分も話したらいけないんだろうって…。

それまでの人生をはじめ、
患者さんがどんなことにアイデンティティーを感じていて、
宣告された今、どんなことを感じているのか。
克明に聞き取りがされていて、とても面白かったです。

▽記者
なるほど。出版が1969年…。
当時としてはかなり大きな話題になったんですね。
ちょっと読みたくなってきました。

えーとえーと、じゃあ次、これいってみますか。
ジョージ・オーウェルの「1984年」

▼筆者
これはほんとにおもしろかったですね。
たまたまテレビ番組で、
いろんな著名人が「メディア論」について
考えさせられる本を紹介するというものがあって、
小説家の高橋源一郎さんがおススメしていて、読んでみました。
NHK「100分deメディア論」

当時の近未来小説で、
主人公がいる国は完全に独裁政権。
言論や行動も国家に厳しく統制されています。

主人公が務めているのが「真実省」(The Ministry of Truth)という
組織で、独裁者の言ったことに合わせて、
過去を改ざんする仕事をしてるんですね。

言語なんかも規制があって、
複雑な思考を言葉にできないように
単語の数を減らすような
新しい言語(Newspeak)を使うことが奨励されているんです。

▽記者
えぐいですね。

▼筆者
はい。相当、えぐいです。
そんな中で主人公は恋愛したり、
反政府活動を始めてみたりするんですが、
もうストーリーとしても先が気になるし、
「フェイクニュース」が話題になる昨今、
本当に色あせず、考えさせられた作品でした。

え、京都?

▽記者

やばいどすえ。もう次、名古屋はおはりませんか。
あと30分…。

***
▽記者
えーと、じゃあ、
山崎豊子「二つの祖国」

▼筆者
去年の「白い巨塔」「大地の子」に引き続いての
山崎豊子の長編シリーズですね。
二つに負けずおとらず、引き込まれました。

▽記者
…え、終わり?笑

▼筆者
あ、えーとですね。そうですね。笑
戦前にアメリカ移民になった日本人の話なんです。
めっちゃ苦労して、2世、3世は
アメリカ国籍まで取得しているのに、
世界大戦が始まったら、
アメリカ政府は本当に冷たい待遇をしたんですね。

日本という祖国をはなれて、
アメリカという新しい祖国に忠誠を誓ったのに、
個人が集まってできた「国」というものは、
個人に対して、ここまで残酷になれるのか、という…。

国って何なんだろう。みたいなことを考えさえられる作品です。

▽記者
はい、じゃあ最後。
カズオ・イシグロさんの「日の名残り」…。
(カシャカシャと
 携帯で写真を撮る音が聞こえてくる)

っておい、何、窓から写真とってんねん!

▼筆者
ホラ、虹が出てますよ…。珍しい…。
(この時点で、名古屋まで残り20分ほど。)

あ、すいません、何でしたっけ?

▽記者
カズオ・イシグロの…(怒)

▼筆者
あっ、えっと、ごめんなさいごめんなさい。

これも面白かったです。
カズオ・イシグロさんは
初めて読んだんですけど、楽しめました。

たしかノーベル賞取ったよね?

堅苦しいのかなと思ったら、
そんなことなくて。

イギリスの古き良き老執事が車で旅に出て、
かつて同僚だった女性に合いに行く…みたいな話です。

老執事の日記調で一人語りでストーリが展開します。
昔の主人の時代のこととか…
元の主人は既に死んでしまって、
今はアメリカの金持ちに屋敷ごと買われてるんですね。

執事っぽい謙虚なことば使いなんですが、
言葉の節々でアメリカ人主人のことが
やっぱりどこか好きになれない…
みたいな感情が見え隠れして、
こんなことできるんだなあと感動しました。

で、基本的には昔のことを思い出して語るという構成なんですが、
テーマの一つが「記憶」で、結構あいまいなんですね。

自分のいいように、事実が記憶にすり替えられているところがある。
今、「私を離さないで」を読んでいるんですけど、
同様に「記憶」がキーワードになっていそうで、
カズオ・イシグロ作品に共通するテーマなのかもしれません。

結局、「歴史」と「記憶」の違いってなんなんでしょうね。
どれだけ証拠というか出典に基づいているかってことなのかもしれませんが、
絵とか文章とか、その出典もだれかの記憶に基づいているわけだし。

時折、執事の「都合の良い曲解」に笑ってしまうのですが、
自分や家族の歴史を考える時、
実は笑えないかもと思うときがありますね…。

▽記者
…お、間に合いましたね。

▼筆者
間に合いました。
あと10分。

じゃあ、発表します!
今年のアワードは…

〇ノン・フィクション部門
エリザベス・キューブラー・ロス「死ぬ瞬間」

〇フィクション部門
ジョージ・オーウェル「1984年」
です!!!!

▽記者
みなさんも興味あったらお手に取ってみてくださいね~。

▼筆者
では、よいお年を。
(と、ここで、まもなく名古屋への到着アナウンス。)

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1.◯20170109レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」(訳・村上春樹)
2.20180115大村はま「教えるということ」
3.20180130岡田保造「形の謎を解く 魔除け百貨」
4.20180130鈴木利雄「拝啓、狛犬様 東京の狛犬めぐり」
5.20180130辨野義己「大便通 知っているようでしらない大腸・便・腸内細菌」
6.20180202津田大介・編「原発の教科書」
7.20180202石川迪夫「原子炉解体」
8.20180202鈴木智彦「ヤクザと原発」
9.〇20180202立花隆「死はこわくない」
10.〇20180206田中宏暁「ランニングする前に読む本」

11.20180206服部禎男「遺言 私が見た原子力と放射能の真実」
12.20180206大崎茂芳「クモの糸でバイオリン」
13.20180206大平一枝「届かなかった手紙 原爆開発「マンハッタン計画」科学者たち
の叫び」
14.〇20180207坪田一夫「あなたの子ども、そのままだと近視になります。」
15.20180223細井和喜蔵「女工哀史」
16.〇20180311立花隆「青春漂流」
17.20180322池上彰「知らないと損する 池上彰のお金の学校」
18.◯20180326中西絵里子「マンガ ・はじめての出生前診断」
19.◯20180327伏木亨「コクと旨味の秘密」
20.20180327坂本 龍彦「新聞記者の仕事」
21.20180329日本産科婦人科学会・監修「お医者さんがつくった妊娠・出産の本」
22.20180329赤すぐ編集部「産後ママの心と体がらく~になる本」
23.20180329黒崎えり子「欲張りな出産」
24.20180329カレン・サマンソン「hotmama 私、妊婦ですが何か?」
25.20180329川上未映子「きみは赤ちゃん」
26.◯20180330「はじめての文学 村上春樹」
27.◯20180330E・キューブラー・ロス「死ぬ瞬間 死とその過程について」(原題:ON DEATH AND DYING)
28.◯篠山紀信・木村駿20180330「すごい廃炉」
29.20180403伏木亨「おいしさを科学する」
30.20180403伏木亨「味覚と嗜好のサイエンス」
31.20180404山名元「原子力安全基盤科学②原子力バックエンドと放射性廃棄物」
32.〇20180404鈴木達治郞「核兵器と原発 日本が抱える「核」のジレンマ」
33.20180410西尾漠「どうする?放射能ごみ」
34.〇20180420村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上)」(再)
35.〇20180424村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(下)」(再)
36.20180429レイチェル・イグノトフスキー「世界を変えた50人の女性科学者たち」
37.◯20180503ジョージ・オーウェル「1984年」
38.◯20180521海外電力調査会・編「みんなの知らない 世界の原子力」
39.◯20180524西村淳「面白 南極料理人」
40.◯20180525村上達也/神保哲生「東海村・村長の「脱原発」論」
41.20180608「東京電力裁判」
42.◯20180609山崎豊子「二つの祖国」(上)
43.20180624こだま「夫のちんぽが入らない」
44.◯20180625西原理恵子「女の子が生きていくのに覚えて置いて欲しいこと」
45.◯20180704猿田佐世ほか「アメリカは日本の原子力政策をどう見ているか」
46.◯20180705山崎豊子「二つの祖国」(中)
47.◯20180805山崎豊子「二つの祖国」(下)
48.20180820山本七平「空気の研究」
49.〇20180830ヨシタケケンスケ「見えるとか見えないとか」
50.・菅野仁「友だち幻想」
51.20180919山岸「しがらみを科学する」
52.20180921「歯は磨いてはいけない」
53.とことんやさしい水素の本
54.サラ・リチャードソン「性そのもの」
55.「LGBTをよみとく」
56.「カミングアウト」
57.NEDO「水素エネルギー」
58.「水素社会はなぜ問題か」
59.「日本の国家戦略 水素ビジネス」
60.幡野広志「ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。」
61.〇20181216カズオ・イシグロ「日の名残り」

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