人のいない大浴場は、なかなか楽しい

先日、とある仕事でとある町の銭湯(温泉?)に行った。
今年の冬には珍しく、少し冷える夜だったがホテルの無味乾燥で小さなお風呂に入る気にはなれず、お湯屋さんを検索してみたのだった。

ガラっと入ってみるといまや珍しい番頭さんスタイル。
そういえば検索したときに口コミで「番頭さんから女湯の脱衣所も丸見えです」と書いてあったっけ…。(女性の番頭さんもいるらしいのですが、この時はおじさんでした。)

たしか入浴料420円。まあまあするなと思いつつ、「石鹸もタオルも貸しますので手ぶらで来てね!」と書いてあったのを思い出す。
520円出して、おつりをもらう。
石鹸とタオル貸してくれるのかなと待っていたら、おじさんが(…ん?)という顔をするので僕も(…ん?)と思いながらも、仕方なく脱衣所へ。タオル持ってきたのでまあいいのだが、なんだか釈然としない。

19時くらいに浴場へ入ると、一人だった入浴客が入れ違いで出ていった。洗い場が10ほど。簡単に体を洗って髭を剃り(石鹸が無いのでさっさと撫でる感じで)、浴槽につかった。浴槽は4畳ほどの広さなのだが、何しろ深い。立っても胸にあたりまでお湯がある。外が寒かったので、なんとも気持ちいい。

ふーっと上を向くと、天窓がある。壁を一枚隔てて女湯。と、これを見て「なんか見たことあるなあ」と思ったら、大学時代の寮の共同浴場と似ているのだった。

大学の共同浴場は入浴料170円。しかも22時(だったと思う)には閉店なので、洗い場が30ほどもあるにも関わらず、閉店間際には洗い場がいっぱいになり、全裸の男たちが(もちろん女湯では女たちが)列をつくり、今か今かと洗い場が空くのを待つのである。なかなかすごい光景です。

うちの大学にはスポーツ専門の学部があったので、異様にガタイの良い男たちがドカドカと入ってきて、正直1年生の頃はびびった。そんな中、知り合いの留学生たち(オランダ人)が大浴場を珍しがってビーチボールを持ち込んで遊びだした挙句、浴場に居合わせたラグビー部主将(推定38歳)ににらまれており、知らんふりしようと心を決めた瞬間に「Hey!OOISHI!Hey!」と思いっきり手を振られて、「ああ短い人生だった…」と走馬灯のようにこれまでの人生を思い出したこともあった。

そんな浴場もガラガラでほとんど貸し切り状態になるときがあるのです。さて、どんなときでしょう?そう。お盆や年末年始にはほとんどの学生がさっさと帰省するので、さしもの大浴場も閑古鳥が鳴き出すのである。早速、170円払ってお風呂に入ってみると、浴場は貸し切りである。芋を洗うどころかラグビー部員たちの洗礼を受けていた僕としては、中々良い気分である。

早速、体を洗ってお湯にざぶんとつかる…と、何か違和感を感じる。そう、お湯が腰ほどにしか入っていないのである。どうやらあまりにも客がいないので、水と燃料代節約で湯量を制限したようなのである。こちらはいつもと同じだけ料金を払っているのであるから、釈然としないが、どうしようもない。

「寝湯」のように顔だけをお湯から出し、上を見上げると、上に大きな天窓があり、壁を一枚隔てて女湯の上の空間が見える。ああそうか、こういう構造になっていたのかあと今更ながらに思った記憶がある。(となりには女子大生しかいないと言えば情緒もありそうなものだが、いつもはラガーマンたちの雄たけびでそんなことに思いを馳せるような空間ではないので気づかなかったのだ。)

番頭さんは閉店時間になるとすぐさま女湯の脱衣所へ行き「まもなく閉店だよ~」と言って回るのを楽しみにしていたし(完全にアウトだ)、清潔とは言い難い環境ではあったけど、お風呂から上がって知り合いの部屋にふらっと言って、ふろ上がりにビールでも飲みながらだべるという生活も、今となっては懐かしく思い返されるのであった。

この春から大学生活を送られるみなさんも、もしご自分の大学に寮があり、大浴場があったら、一度試してみてください。いまどきはもう、共用大浴場なんてあんまりないのだろうか。

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