「波の子」をさがして

ちょっと忙しかった6月を無事に乗り切り、おやすみに千葉県に行ってきた。海まで徒歩3分!というのが売りの宿だったのだが、残念ながら梅雨明けならず。寒さと悪天に阻まれて「初海水浴」はあおずけとなりました。まあでも、せっかくなので、ちょっと様子の良い海岸をぶらぶらしてみる。

ちょっと沖合まで伸びた桟橋。天気が良かったら、もっと気持ちがいいんだろうな。若い釣り人二人が何かを携えてこちらに歩いてきた。こんにちはーと声をかけると、うれしそうに釣果を見せてくれた。立派なコチ!煮つけにしたら食べ応えがありそうです。ごくり。

生き物の気配の濃さを感じつつ、ふとみると、砂浜に何か模様を描く男性が…。一人で黙々と砂を掘っている。これはもうとにかく、近づいてみるしかない。結構近づいても、こちらに気づくこともなく作業を続けていらっしゃる。一体何を…とバケツの中をみると、答えがわかった。

バケツいっぱいの貝!しかも、ものすごく動き回って新鮮この上ない。笑 貝ってこんなに動き回るものかと驚いた。あいさつをすると男性は、ようやくこちらに気づき、にっこりとあいさつを返してくれた。

あさりですか?と聞くと、「さあ…。うちらは『なみのこ』『なみのこ』言うております」とのこと。最初、なんのことかわからなかったのだが、『波の子』とはかわいい名前だ。「この波打ち際にいるんですわ。だからね、一回、いるところを見つけてしまえば、横に掘っていくとどんどん出てくるんです。」

検索で調べてみると、ナミノコガイは正式名称らしい。そういう名前の貝であり、アサリともシジミとも違うのだ。「知っていたら学者級」と書いてあって、笑った。「究極の美味」とも書かれており、アサリよりもむしろ旨味があるかもとも書かれており…ごくり。このおじいさんはみそ汁に入れたり、たくさんとれた時には佃煮にするのだと話していた。子どものころから、ずっとこの浜で取っているんだと話していた。梅雨の時期が、一番身が詰まって美味いとも。

我々と話しながらも、どんどん掘っては『波の子』をどんどん見つけていく。手をみると、何やら貝殻を使って掘り出しているようだ。(後ほど、お昼ご飯を食べた海鮮丼屋さんに同じものが飾られていて、あわびの貝殻だということを知る。)その作業がおもしろくて、ついじーっと見ていたら、おじいさんが「やってみますか?」とテレビの台本ばりの提案をしてくださった。もちろん、はい!やりたいです!と言ったら、おじいさんは急に駆け出していってしまい、びっくりした。え…?どこへ…?待つこと、数分後。

息を切らせてもどってきたおじいさんの手には、もうひとつ、立派なあわびの貝殻が握られていたのでした…。なんと、掘りやすい貝殻を集めて、ご自宅(海からすぐそこらしい)に置いてあるとのこと。ちょっと借りて、ちょっとやらせてもらうつもりだったが、本格的に参加すると思われたらしい。わざわざありがとうございます!優しい…。

さっそくレクチャーを受けつつ、掘ってみる。手に持った貝殻が『波の子』にあたると「カツン!」という手ごたえがあるため、すぐわかる。10分ほどしかやっていないが、結構とれる。たしかにこれは面白い。ひとりで黙々と作業してしまう気持ちがわかった。もやしのひげとりとか、庭の雑草抜きとかに似た、単純作業だけど成果がたまっていく快感。日々のストレス解消になりそうな気がした。

(写真注:一応、32歳です。)
収穫を波で洗って確認してみると。

綺麗な貝が、こんなに取れました。持って帰りたいところだったけど、帰るまでに悪くなりそうだったので、おじいさんに寄付(いつか食べてみたい)。「小さいのは逃がしてやった方がいい。すぐ大きくなるから」とのことだった。昔から、ずっとこの浜にいるのは、きっと乱獲しないからなんだろうなという気がした。

別れ際に、おじいさんがもう一つ素敵な話を教えてくれた。「この貝、どこにでもいるってわけじゃなくて、富士山が見える浜にしかいないそうなんだよね。ほら、この浜も、すごくよく富士山が見えるから。」

そういえば、砂浜の入り口に、この浜から見える富士山の写真が飾ってあった。

波打ち際で遊んで、富士山がみえる浜にいるという「波の子」。海水浴ができたわけでも、美味しいものが食べれたわけでもないが、こういう話を聞けると、旅っていいなあと、しみじみ思います。

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