小学校2年生くらいだっただろうか。
友人の一人が、珍しく真顔で語りだした。
「あんなあ、ちょっと、すごいもん見つけてしまったんや。」
帰り道ちょっとええか、と言う友人につづいて、
ぞろぞろと4、5人で校門を出た。
彼が案内したのは、小学校のすぐそばにある、
小さな雑木林のような場所だった。
道に隣接しているところで、毎日通学で目にするが、
不思議と、足を踏み入れた記憶はなかった。
「これなんやけど…」
友人が指さした先には、一匹の小さな獣がいた。
正確には、それは生物ではなく、死骸だった。
イタチか何か、小動物の死骸がそこにあったのだった。
わたしたちは、はじめて見るその亡骸を囲み、
立ったまま、じっと見つめ続けていた。
茶色と灰色の間くらいの色をした毛並みは、
生きているときと同じようだったが、
すでに腐敗が始まっていたのであろう。
それまでに嗅いだことのない匂いがした。
むっとした、むせ返るようなにおい。
ちょっと饐えたような…。
色にたとえると、茶色か。
うまく言葉にできないが、
その匂いは見た目以上に、強烈に頭に刻み込まれた。
「匂い」というのは不思議なものだ。
ちょっと、音楽に似ているなと思う。
繰り返し聞いていた音楽を聞かなくなって、
ある日ふと耳にしたときに、
聞いていた頃に感じていたことなんかをふっと思い出したりする。
きょう、仕事から帰る途中、
あの匂いがぶわっと風に乗って漂ってきた。
それで、あの雑木林での出来事が
突然脳裏によみがえってきた。
どうやら、住宅街の狭い隙間から漂ってくるらしかった。
久しぶりに曇天のそらから、
ぽつりと小さな雨粒が落ち始めていた。
あの匂いは、毛皮のある動物特有のにおいなのだろうか。
人間がそうなっても、同じような匂いがするんだろうか。
そんな物騒なことを考えながら、
家路を急いだ。
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私も小学生のとき、帰り道の田んぼ脇の草むらで、死んで動かなくなったイタチを見つけたことがあります。少し怖くなって、家に帰って母を連れて戻り、スコップで埋めました。
匂いはありませんでしたが、持ち上げた時の「硬さ」に驚いた、その感覚が印象的でした。
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>blanscheさん
コメントありがとうございます!
昔のことを思い出すと、「ストーリー」で覚えているということもあるんだけど、なんだか断片的な印象が多い気がします。特に幼少期。
匂いとか、触感とか、なぜだか頭にこびりついて離れないものありますよね。そういうなんやかやが「自分」を形作っていくのかなと思います。 Like