お会計をすませて、出口に向かおうとすると、
「ねえ、ちょっと見て下さいよ」
と後輩に呼び止められた。
その焼き肉屋さんには大きな水槽があって、
たくさんの綺麗な魚が泳いでいるのであった。
「この、下の木の中にいる青い魚…(写真、中央下)
完全に閉じ込められてますよね。」
そんなバカなと思ってみて見ると、
どうやって入ったのか、たしかに進退窮まっているように見える。
魚も、よいしょよいしょと懸命に出ようとしているが、
どうにもならない、といった風な運動を繰り返している。
しばらく、無言で水槽を見ていたのだが、
後輩は、何を思ったのか
「すいまっせーん!」と店員さんに声をかけた。
わりとわかい、かわしらしい店員さんが、
怪訝な顔で「はい…?」とこちらへ来てくれる。
後輩「これ、完全に行き詰まっていると思うんですけど…」
店員さん「え…?(意味不明)あっ、ああ、これ…」
そこへ、年配のおかみさんがヘルプを出す。
おかみさん「それね、その魚、そこが好きみたいで、よくいるんですよ。
閉じ込められたように見えるんですけど、放っておいたらすぐでてきますよ」
どうやら、いつものことらしい。
小説の山椒魚のようにならなくてすむみたいだ。
ああ、そうですよね、はは、ははは!と
わけのわからないことを言いながら、
後輩をひっぱって外へ出た。
帰りながら、後輩が
「明らかに行き詰まってたように見えましたけどねえ」という。
「そういうことも、あるんじゃないの…?世の中には…。」
と、なんとも適当な返事を返す。
もうかなり寒くなって、曇りがちな毎日が多い中で、
珍しく顔を出した月を眺めながら、
二人は、思い思いに何事か考えをめぐらしながら、
ちょっと黙りがちに、歩いて帰ったのだった。
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