マグニチュード(M)とモーメントマグニチュード(Mw)って何が違うの?

2024年8月8日に日向灘沖(九州)で起きた地震に関連して、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。臨時情報が出されるのは初めてで、お盆前で本格的な行楽シーズン直前だったこともあり、「なんだなんだ」と注目された方も多かったのではないでしょうか。

気象庁の会見がテレビでも中継されました。その中で、「マグニチュード」「モーメントマグニチュード」という言葉が飛び交いました。(気象庁の人が「マグニチュ…いや、モーメントマグニチュードは…」と言い直す場面も。)

震度とどう違うの?モーメントあり/なしで違うの?なに?どしたん?話聞こか?状態になって気になる方もいると思います。簡単にまとめてみました。

気象庁 緊急記者会見【令和6年8月8日17時45分】, 気象庁/JMA,Youtube公式チャンネル
資料の中に「マグニチュード」「モーメントマグニチュード」の両方の表記が見える。
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そもそもマグニチュードって?

なんなんでしょうね。よく聞く「震度」とは何がちがうんでしょうか。随所で解説されているので、詳細は省きますが、要するに

<震度>
「ある地点でどんだけ揺れたか」
を表す量。計測震度計によって測定可能。


<マグニチュード>
「地震を発生させる原因となった岩盤(断層やプレート)のずれの激しさ」
を表す量。起きた地震がどれくらいのエネルギーを発したかも読み取ることができる。

ということです。<震度>は機械で直接測れるけど、<マグニチュード>は地震計などで計測した他のデータから計算しないとわからないんですね。

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震度じゃダメ?マグニチュードを計算する理由

内心、「そないなめんどくさいもん、計算せんでええやん、直接測れる<震度>でええやん」、と思った人もいるでしょう(ぎくり)。

たとえば、気象庁が公表している「日本付近で発生した主な被害地震(平成28年以降)」を参考に、震度6弱以上の地震を見てみると、15の地震が該当することがわかります。

上記出典を参考に、筆者が作成

震度に注目すると、石川県能登地方・胆振地方中東部(北海道)・熊本地方は、いずれも「最大震度7を記録した地震」としてカテゴライズされ、<同等規模の地震>ということになります。

しかし、マグニチュード(M)でみると、6.7〜7.6と開きがあり、最も地震のエネルギーが大きかったのは能登地方の地震だったことがわかります。後述しますが、東日本大震災での値は9.0(!)と、「最大震度7クラスの地震」とひとことでいっても、その規模は様々。これを表して分類できるのが、マグニチュードということになります。

マグニチュードは、「津波」に対しての警戒にも重要です。たとえば明治の三陸沖の地震では、「揺れが大したことないから大丈夫かな」と思った人が多かったにも関わらず、結果として海抜38.2mの津波で2万人以上が亡くなりました

場所や震源の深さなどによって変わる“相対的”な「揺れ」ではなく絶対的”な「地震が発したエネルギー」で考えないと、対応を見誤る場合があるのです。

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本題!マグニチュードMとモーメント…Mwって何が違うの?

そもそも、日本国内で(特に気象庁の発表や、それをもとにした報道など)マグニチュード(M)というときには「気象庁マグニチュード」(Mj)を指すことが多いです。日本の気象庁が考案した計算方法で算出したマグニチュードということですね。

本当は、世界で広く採用されているモーメントマグニチュード(Mw)がぱっと出せればよいのですが、そのためには高性能な地震計のデータを使い、複雑な計算を行う必要があって時間がかかってしまう。

そこで、気象庁は日本各地にある(そこまで高性能ではない)地震計の値をもとにして、比較的簡単に出せる計算方法を開発しました(偉い)。それが、「気象庁マグニチュード」です。地震直後に、速報的に値を出せるのですね!やったぁ。

ただし、気象庁マグニチュードは「規模の大きな地震になると岩盤のずれの規模を正確に表せません」としており、よく起こる地震の規模であればそれなりに使えるが、稀に起こるめっちゃでかい地震の場合は注意してね、ということのようです。

たとえば2011年に発生した東日本大震災では、気象庁マグニチュードを発生当日に速報値で7.9、暫定値で8.4と発表しましたが、発生2日後に地震情報として発表されたモーメント・マグニチュードは9.0でした。大きな地震になると、ある程度の差が出てきてしまうのですね。そして、モーメントマグニチュードを計算するには数日かかってしまうと。

結論としては、つまり、要するに、まとめると、

  • マグニチュード(M)というとき、気象庁マグニチュード(Mj)を指すことが多い。
  • 気象庁マグニチュード(Mj)とモーメントマグニチュード(Mw)は計算方法が違う。
  • でも表したいものは同じで、「地震そのもののエネルギー(規模)」のこと。
  • 気象庁マグニチュードは、簡単に・迅速に出せるマグニチュードの一種。
  • 気象庁マグニチュードはモーメントマグニチュードと近い値として見て良い。
  • ただし、大地震・巨大地震などの際は、差が現れる場合があるので注意が必要。

というような感じでしょうか。マグニチュードといっても色々な計算方法があり、まさしく「マグニチュードって200種類あんねん」ということだと思います(そんなにはないと思う)。

ということでした。何かのご参考になれば幸いです。

(以下は興味があったら読んでね。)

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マグニチュードは、地震大国・日本が誇る発明

場所ごとに違う<震度>ではなく、地震そのものの規模(地震によって一つの値になります)を測れるマグニチュードは、地震の研究・防災に非常に重要で、これが考案されたのは「大発明」といって差し支えあるまい(と筆者は思う)。

マグニチュードを実用化したのは、アメリカの地震学者チャールズ・リヒター。しかし実は、その着想のもとは日本人の地震学者・和達清夫が作成した、「最大震度と震央までの距離を書き込んだ地図」と言われている

「ふーん…。あれ、なんかこういうデータって全部がばらばらじゃなくて関連してそうだよな。なんか式が作れたら、地震そのものの大きさっていうか、エネルギー的なものが特定できるんちゃうか」と思ったの、かもしれません(多分違う)。今で言う、「データビジュアライゼーション」とか「GIS」ですね。可視化すると、意味とか関係が見えてくるという…。

内閣府の地震本部のページにも、和達さんのことが下記のように紹介されています。

もともとマグニチュードの概念は、深発地震の発見などで有名な和達清夫が考えだしました。そしてアメリカの地震学者リヒターによって実用化されました。米国ではマグニチュードより「リヒターさんの物差しで測って幾つ」という言い方の方が多く使われます。

島崎邦彦”マグニチュードとマントル”, 地震本部ニュース(内閣府地震本部)

さてさて、そしてマグニチュードに世界統一基準というのはないのですが、アメリカ地震学会はじめ、世界中で採用されている「モーメントマグニチュード」の発明者のひとりも日本人です。

1979年、トーマス・ハンクス(アメリカ)と金森博雄が共同で2ページちょいの論文を発表。これがいま、世界中で使われて、地震の発生メカニズムや防災に役立てられているのですね〜。地震大国日本と、マグニチュードには密接な関係があるのでした。

Just a moment...

ちなみに金森さんの講演録「波に魅せられて」が公開されていて、面白いので、興味がある方は読んでみてね。

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<詳しく知りたい人向け>どうやって計算する?

モーメントマグニチュード(Mw)は、こんな感じです。

S は震源断層面積、D は平均変位量、μ は剛性率。岩盤のどれくらいの面積が(S)、どれくらいの距離(D)移動したか。また、その岩盤の固さ(μ)はどうだったか…ということですね。

震源断層面積に関して、防災科学技術研究所が面白い資料を出していました(下図)。

図2.4 マグニチュードによる地震断層面の大きさの違い, 2.2 マグニチュード別に見た地震のイメージ(防災科学技術研究所)

マグニチュードごとに、目安としてどれくらいの面積の断層がズレ動いているのか…を表した図です。

マグニチュードによる地震断層面の大きさの違いを見るため, 地図上に各マグニチュードの地震の典型的な姿を重ね合わせて示したものです. M8の地震はひとつの県と同じ位の広さをもった巨大な断層面を有するのに対し, M2の地震の断層面は小中学校の校庭くらいの広さしかありません.

図2.4と同様

マグニチュードが違うと、ここまで変わるのか…ということとともに、先日の日向灘の地震がM7クラスでしたから、東京都23区ぐらいはすっぽり入りそう。スケールの大きさが実感できる図ですね。

ただ、上述してきた通り、「こんな面積、どうやって計算すんねん(笑)」という感じです(実際に難しい)。

そこで、気象庁マグニチュードの計算方法はというと。

*速度振幅によるマグニチュード。別に変異によるマグニチュードの式もある。

一見すると(難しそうやんけ)、と思うのですが、ひとつずつ見てみると…?

Az は最大振幅(地震計で測れる!)、α は地震計特性補正項(地震計によって決まる!)、βv は震央距離(地震計の場所で決まる!)と震源深度の関数(震源の深さで決まる)、Cvは補正係数(一定)。

ということで、地震計があればMvが出せちゃうんですね〜すご〜。(地震計はたくさんあるので、一個だけじゃなくて統計的に正しそうな値を算出しているのだと思います。)

ちなみに気象庁は2003年にこの計算式の改訂を行なっており、兵庫県南部地震のMは当初M7.2と発表されましたが、再計算されて、M7.3に改訂されています。(今も、古い資料などをみるとM7.2という数値が残っています。)

「災害列島」と呼ばれる日本ですが、日々、さまざまな工夫でその脅威の姿をとらえ、対処していこうという科学・技術者たちの姿勢が見える気がします。

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