美味しいご飯と温かいお話

引越しの片付けに疲れ果て、おそらく人生最後と思われる「おふくろさん弁当」を
食べながら、アムステルダムで後輩にもらったチェコビールを飲む。
気づいたら、こたつで寝ていた。

電話の音で起きる。
今日飲もうと言っていた友人からだった。
しかも、彼女の家にいるから、来いという。
(この女の子も、後輩なので知っている。)
確かに、二人で家に来てくれるという話だったけれども、
なんとなく申し訳ない気がした。
けれども、いいから来いと言ってくれるので、行くことにした。

顔を洗って、歯を磨いた。

外に出て、自転車をこぐ。
花冷えを、節電で電灯が消えた町が助長する。
風が、身にしみて、信号を通り過ぎる時にうぅ、と声が出た。

近くのコンビニまで友人に迎えに来てもらって、部屋にお邪魔する。
あたたかい。
部屋も、さっぱりしていて、それでいて温かみを感じさせてくれる装飾だった。

ご飯をいただいた。
まず、抹茶ラテをいただいて、(暖かい!)
それから、「野菜グラタン」を頂いた。(おいしい!)
さつまいもが甘くて美味しい。適度に歯ごたえがあるのもいい。
さつまいもの上に乗っているチーズと胡椒がアクセントになっている。
下をのぞいたら、キャベツとにんじんがいた。

リゾットも、とてもいい味付けだった。

二つとも、とても「やさしい」味。
無理に外からこてこてに味付けするのではなくて(そういう料理が食べたくなる時もあるけどね)、
素材の中にちょっと隠れている美味しさを、引き出したような美味しさ。
特に、連日飲み会の身には、とてもとても沁みた。
こういう美味しさがあることに気づけたのは最近の話で、
そういう意味では、母親に申し訳ないことしたなと思ったりする。

友人の彼女さんであるところの後輩が、お皿を洗ってくれている間、
友人と「蒼穹の昴(ドラマ)」にツッコミを入れていた。
まず、落ち込む兄に妹が元気付ける言葉を言うのだが、
たった一言で元気が出すぎた兄に、妹はちょっと引いていたり、
ベッドの下に、「伝説の石」候補があったりした。

お皿を洗い終わった後輩と、また3人でお話。
後輩が、とても温かい、いいお話をしてくれた。
僕は、その人の「なぜ」を聞くのがとても好きだ。

「なぜ」今勉強していることをしようと思ったのか。
「なぜ」将来そのような仕事をしてみたいのか。

この人と、もっと話してみたいな、と思うとき、
その人の明るさや面白さと同時に、心にひっかかる程度の、
ほんのわずかな「重み」のようなものを感じる時がある。
この後輩は、そういうものが、なんとなくあるような感じがしていた。
聞いていて、僕は結構胸が熱くなるのを感じた。
とてもとても、温かいお話だった。

先天的に何かを持っている人は、それをさらりと出す。
とてもスマートだ。
そういう人に、僕はすごくあこがれてきた。
人は、自分に無いものにあこがれる。

けれども、大学で学んだ大切なことに一つは、
後天的に、苦労して獲得したものには、「重み」があるということ。
こころにかちり、とひっかかる、温かみがある。

大学3年生の時、登山のサークルのことで僕はそれなりに悩んでいて、
そのサークルのOBの方に少し相談をしていた。
その方からもらった言葉でとてもうれしかったのは、
「悩んだり、苦しんだりしながら、人は魅力的になっていくんだよ」
という、言葉だった。
割とありきたりなこの言葉に、僕はとても救われたと思っている。

僕は、あまり社交的でなくても、自分の好きなことをやっている人とかも
わりと好きだと思う。
けれども、明るくて、面白い人には、やっぱり惹かれる。
そして、その明るさ、面白さに、重みが、影が感じられる人には、好きなだけではなく、
「応援したい」という気持ちが強くなる。

きっと人は、弱さを殺して強くなるのではなく、
弱さの延長線上で強くなれる。

この話を聞いていて、僕はこの後輩の女の子が、どうして友人を好きになったのか
少し分かったような気がした。
彼もまた、軽い話し口の中に、わかりにくい重さがあると思う。
器用な分、この女の子よりも不器用なのだと、勝手に僕は思う。

午前0時を回ったので、そろそろ…と立ち上がる。

お礼を言って、外に出る。
隙間から、手を振っている二人が見えてドアが閉まった。

一階まで下りて、空を見た。
星が出ている。
不思議と、来た時ほど寒くないように感じるのは、
きっと、美味しいご飯と、温かいお話を頂いたからだろう。

コメント

  1. じー より:

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    なんだかきゅんとしました。
    グラタン、いいっすね。 Like

  2. ton2_net より:

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    ありがと!
    グラタン、美味しかったのよー Like